フランスの軽罪裁判所で傍聴した話
フランスの刑事裁判は基本的に公開されていて、傍聴することが可能です(案件によっては非公開の裁判もあり)。
今回は、重罪院 (Cour d'assise)よりも軽い犯罪を取り扱う軽犯罪裁判所 (Tribunal correctionnel)にて、実際の裁判を傍聴したので、その様子を書きたいと思います。
1. 法律違反の種類
傍聴の話に入る前に、どのような案件が取り扱われているか少し見ていきます。
法律に違反することを、フランス語でune infractionといいます。
このinfractionは、度合いの軽い順に、次の3つに分けられます。(日本語訳は辞書などから取っているので、公式ではないことをご了承ください。)
Une contravention (違反) : 1〜5級に分けられ、級が増えるほど罪が重くなります
- 脅迫や軽度の器物損壊、軽度の暴力など。
- 罰金 (amende):最大1500ユーロ。免許の剥奪なども。
- 時効 (délais de prescription):1年
- 裁判所:Tribunal de police (違警罪裁判所)
Un délit (軽罪) :
- 窃盗や会社資産の悪用、差別、精神的な嫌がらせ、セクハラ、過失致死 (殺害の意思なく相手を死亡させてしまうこと)など。
- 罰金、禁固刑 (peine d'emprisonnement):最低3750ユーロの罰金、2ヶ月以上10年未満の禁固刑。講習や社会福祉活動などもあるようです。
- 時効:6年
- 裁判所:Tribunal correctionnel (軽罪裁判所) → 今回訪れたのはここ★
Un crime (重罪) :
- 殺人や強姦など。
- 罰金、禁固刑:最低3750ユーロの罰金、15年以上の禁固刑 (終身刑まで)。
- 時効:20年
- 裁判所:Cour d'assise (重罪院)。陪審員 (juré)が参加します。
以上の情報は、Service public(公共サービス)のサイトで確認できます。フランス政府のサイトは急に法令が出てきたりせずに割と平易な書き方がされていることが多いので、好印象です。
Quelles sont les différences entre une contravention, un délit et un crime ? | Service-public.fr
2. 裁判所に入る
今回訪れた裁判所では、入り口で手荷物検査を受け、金属探知機を通過しました。
予約や受付は必要なく、裁判が始まるまでベンチのある廊下で待ちました。傍聴した時に気づいたことですが、待合では、被告人(拘束されている場合は別室で警察と待機)や他の傍聴者たち(被害者も含む)とも区別なく一緒になって待ちます。何人か弁護士 (avocat、称号はMaître)もいました。
場所によると思いますが、午後は13時30分に開場して、14時から裁判開始の予定になっていました(実際は14時30分頃まで待ちました)。
裁判の行われる部屋のドア付近に、訴訟の概要が記された紙が貼ってあったので、そこで概ねどう言った件で刑事裁判が行われるかがわかります。同じ部屋で複数の裁判が続けて行われました。
Tribunal correctionnel(軽罪裁判所)で取り扱われる案件の例:
- 詐欺 (une escroquerie)
- 窃盗 (un vol)
- 過失致死 (un homicide involontaire):故意でない殺人のことで、業務上の事故による死亡も含まれるようです。
他にも、いくつか学んだ単語を並べてみます。
- 被告人=prévenu(e)(重罪院の場合は、accusé(e)と呼ばれるようです)
- 傍聴=audience (傍聴する、だとassister à une audience)
- 傍聴人=auditeur(trice), public
- 損害賠償請求人=partie civile(罪によって被害を受けた人 (=victime)がなれます。)
- 訴訟=procès(刑事訴訟はprocès pénal)
- 控訴=appel(控訴院をcour d'appelと呼びます)
3. 傍聴開始
ベルが鳴り、部屋に入り、傍聴人席に座りました。(傍聴人席には、裁判を待つ被告人や弁護士、被害者なども座っています)
裁判の座席の例はこちら。(左右逆のことなどもあります)
紙に書いてあった順で裁判が進むと思いきや、即時出頭 (comparution immédiate)のケースがあったようで、紙には記されていませんでしたが、このケースから取り扱われました。即時出頭とは、警察に拘束された後に、速やかに裁判を受ける手続きのことで、証拠などが揃っているときに行われるようです。
中央の奥に裁判官と補佐がいて、まず真ん中の裁判官が訴えの概要などを読み上げ、被告人に質問したりします。
次に原告側の弁護士の主張が述べられたのち、共和国検事からの起訴状・証拠書類などが提出されます。
被告人の弁護はその後に行われます。被告人は、拘束されている場合は警察官付き添いのもと、ガラス張りのスペースに座ることになります(その中にドアがあって、待合室から直接入ることができる)。
判決は、その場で行われる場合 (sur le siège)と、後日または間を置いて言い渡される場合 (mise en délibéré)があります。今回は、後者の案件があり、途中で傍聴人の退席が命じられました。中では非公開での審議 (à huit clos)が行われていたようです。30分以上待ってまだ再開されなかったので、ここで退出することにしました。
裁判を傍聴することで、実際の訴訟がどのような手続きで進められているか、また、社会ではどのようなことが起こっているのかを知るのに有意義だと感じました。